従業員の出産・育児休業に関する手続き
社会保険に加入している従業員が妊娠したら、会社はどのような手続きをすれば良いのでしょうか?
出産や育児に関する手続きは、健康保険・厚生年金保険にかかるものと、雇用保険にかかるものがあり、複雑ではありますが、妊娠、産前産後休業、育児休業中、復帰後・・と、各ステージにて行う手続きを把握することで、スムーズな手続きができることとなるでしょう。
従業員の方が安心して出産・育休を取得し、職場復帰できるよう、サポートしていきたいですね。
今回は大まかな流れをご説明します。
1.従業員から妊娠の報告を受けたら
一般的には、妊娠安定期に入る5か月以降、報告を受けることが多いと思います。業務の引継ぎを計画的に行うことが大切ですが、法律的にはどんなことが必要なのでしょうか。
令和4年4月の育児休業法改正により、会社は従業員から妊娠・出産の申し出を受けた場合、以下の措置を行うことが義務化されました。出産する女性従業員だけでなく、妻が妊娠した男性従業員の方にも必要です。
①雇用環境の整備
育児休業を取得しやすい雇用環境の整備として、事業主は以下のいずれかの措置を講じなければなりません。
(1) 育児休業・産後パパ育休に関する研修の実施
(2) 育児休業・産後パパ育休に関する相談体制の整備(相談窓口設置)
(3) 自社の労働者の育児休業・産後パパ育休取得事例の収集・提供
(4) 自社の労働者へ育児休業・産後パパ育休制度と育児休業取得促進に関する方針の周知
②育児休業取得の意向確認
従業員本人(または配偶者)の申し出をした労働者に対して、個別に、育児休業制度等に関する以下の事項の周知と、休業の取得意向の確認を行わなければなりません。
周知事項 | ①育児休業・産後パパ育休に関する制度 ②育児休業・産後パパ育休の申し出先 ③育児休業給付に関すること ④労働者が育児休業・産後パパ育休期間について負担すべき社会保険料の取り扱い |
個別周知・ 意向確認の方法 | ①面談 ②書面交付 ③FAX ④電子メール等 のいずれか 注:①はオンライン面談も可能。③④は労働者が希望した場合のみ。 |
※個別周知・意向確認書は厚生労働省のHPにフォーマットがありますので、こちらを利用して意向確認を行うことができます。→ ダウンロード
2.産前休業に入ったら
①社会保険料免除の申請
出産予定日の6週間前より(単体の場合。双子以上の場合は産前14週)、実際に休業を開始した日から、産前休業期間となります。
(参照)コラム:産休期間中に働いたらどうなる?
この時点で、「健康保険・厚生年金保険 産前産後休業取得者申出書」を提出します。→詳細記事はこちら
この届出により、産前休業開始日を含む月より、社会保険料が免除になります。本人負担分も事業主負担分も免除となりますが、将来の年金額の計算には保険料納付済期間として算入されます。
産休期間中に働いたらどうなる?
1日でも出勤した日については、労務に服した日となるため、産前産後休業期間として取り扱わないことになります。そのため、出勤した前後は別々の産休期間として取り扱われ、それぞれで届出が必要になります。ただし、結果的に月末日において産休期間であれば、その月の社会保険料は免除となるので、保険料の免除に影響がなく、届出のみが煩雑になることを防ぐためには、それぞれの期間での届出は不要とすることで差し支えありません。
3.出産したら
①出生日、お子様の名前などを確認
出産後、出生届の手続きなどが終わって落ち着いたら、会社に連絡をしてもらいましょう。
・お子様の出生日、氏名(フリガナ)、性別
を確認します。
扶養に入れるかどうかも確認して、扶養に入れる場合はマイナンバーも必要になりますので、確認しましょう。
※両親どちらかの扶養に入れるかについては、原則、収入の多いほうの扶養に入れることとなっています。
出産予定日と、実際の出産日が異なる場合は、「健康保険・厚生年金保険 産前産後休業取得者変更(終了)届」を提出します。
②出産手当金の申請
被保険者が出産のため会社を休み、事業主から報酬が受けられないとき、被保険者や家族の生活を保障し、安心して出産前後の休養ができるようにする目的で、出産手当金が支給されます。出産手当金は産前産後休業の期間、支給されます。
支給額
休んだ日1日あたり: 支給開始日以前12か月間の各標準報酬月額を平均した額 ÷ 30日 × 2/3
支給期間
出産日(出産予定日より遅くに出産した場合は出産予定日)以前42日目※ から 出産の日の翌日以後 56日目までの範囲内で会社を休んだ期間
※多胎妊娠の場合は98日目
会社は、産前産後休業中の勤怠、給与の支給について証明します。また、病院で医師の証明をもらい、申請します。
③育児休業申出書(社内様式)
産休後、引き続き育児休業を取得する場合は、「育児休業申出書」を提出してもらいましょう。こちらは社内様式として、従業員から会社に申出てもらう運用にするのが望ましいです(行政機関に申請するものではありませんが、育児休業給付申請の際に添付します)。従業員からの申し出に基づき、会社は「育児休業取扱通知書」を従業員に交付します。こちらも厚生労働省のHPに様式があります。 → ダウンロード
4.育児休業に入ったら
①社会保険料免除の申請
引き続き、社会保険料免除の手続きとなる、「健康保険・厚生年金保険 育児休業等取得者申出書」を提出します。満3歳未満の子を養育するための育児休業の期間について、社会保険料が免除となります。
原則、お子様が1歳の誕生日の前日まで、1歳6か月となる日の前日まで、2歳の誕生日の前日まで、3歳の誕生日の前日まで、というように申請していき、途中で職場復帰し育児休業が終了した場合は、「健康保険・厚生年金保険 育児休業等取得者変更(終了)届」を提出します。
②雇用保険 育児休業給付
雇用保険の被保険者の場合、以下の要件を満たすと育児休業給付を受給できます。
- 被保険者から初日と末日を明らかにして行った申出に基づき事業主が取得を認めた育児休業であること
- 子が1歳に達する日前までの休業であること(パパ・ママ育休プラス制度を利用する場合は1歳2か月、さらに保育の実施が行われない場合は1歳6か月または2歳まで)
- 休業開始前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある完全月が12か月以上あること。(11日無い場合は80時間以上)(休業開始前2年間に引き続き30日以上賃金の支払いを受けることができなかった期間がある場合は、最長4年前まで遡って11日以上ある完全月が12か月あれば要件を満たすことができます。)
支給額
休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 67%(育休開始から181日目以降は50%)
原則2か月に1回の申請になりますが、被保険者本人が希望する場合は、1か月に1回の申請も可能です。
支給期間
原則、子が1歳に達する日前※まで
(パパ・ママ育休プラス制度を利用する場合は1歳2か月、さらに保育の実施が行われない場合は1歳6か月または2歳まで)
※雇用保険では「1歳に達するのは誕生日の前日」となるので、実際はお子様の誕生日の前々日までとなります。
③男性版育児休業
令和4年10月1日より、男性版の育児休業である、出生時育児休業(通称:産後パパ育休)が創設されました。
産後パパ育休とは産後8週間以内に、4週間(28日)を限度として2回に分けて取得できる休業で、1歳までの育児休業とは別に取得できる制度です。出生時退院時等とさらにもう1回と、柔軟に取得できるようになりました。
休業開始前2年間に賃金支払基礎日数が11日以上の月が12か月必要なことや、支給額は上記②の女性版の育児休業給付と同じです。
5.職場復帰したら
①社会保険料免除の終了の申請
復帰したら、社会保険料は免除ではなくなりますので「健康保険・厚生年金保険 育児休業取得者変更(終了)届」を提出します。
②養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置
お子様が3歳に達するまでの養育期間中に、育児短時間勤務などで標準報酬月額が低下した場合、養育期間中の報酬の低下が将来の年金額に影響しないよう、出産前の標準報酬月額に基づく年金を受け取ることができる仕組みです。被保険者の申し出に基づき行う申請です。
社会保険料の控除は低下した等級での控除になりますので、特にデメリットはありません。忘れずに被保険者にご案内しましょう。申し出があった事業主は「厚生年金保険 養育期間標準報酬月額特例申出書」を提出します。戸籍謄本の添付が必要なので、準備してもらいましょう。
③育児休業終了時報酬月額変更届
育休終了時に、3歳未満の子を養育している被保険者は、次の条件を満たす場合、復帰後4か月目の標準報酬月額から改定することができます。
- これまでの標準報酬月額と改定後の標準報酬月額との間に1等級以上の差が生じること
- 復帰後、支払基礎日数が17日(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日)以上ある月が少なくとも1か月あること。
こちらも被保険者からの申し出による手続きとなりますので、上記②のみなし措置と同時にご案内しましょう。
クルーズ社会保険労務士法人・行政書士事務所では、「健康保険・厚生年金保険 産前産後休業取得者申出書」をはじめとした各種届出の手続きや申請の代行などを承っております。労務の専門知識を持ったスタッフが、しっかりとお話しを伺った上で迅速にご対応致しますので、どんな時でも安心してお任せください。
また、届け出等の手続きや給与計算、助成金の申請代行のほか、顧問社労士のご相談も随時受け付けております。クルーズグループの代表でもある社会保険労務士が、社労士と経営者という2つの視点からサポートさせていただきますので、日々労務に関してお悩みの事業主様は、頼りになるパートナーとして長いお付き合いもご検討いただけますと幸いです。
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(監修:社会保険労務士・尾形達也)